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恋する賃貸 ~お部屋で紡ぐ恋人たちの物語~ 『準備期間0日のプロポーズ』

「彼女にプロポーズがしたい」と思い立った。
 
仕事中、そんな衝動にかられた。そうだ、バラを100本用意しよう。
すぐにスマホを取り出し、100本のバラを購入する。
 
2人で暮らすには少し狭い1Kの部屋で、今日、プロポーズをする。
 
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私がCHINTAIで営業担当をしてた頃の話です。

2014年10月、仕事が終わり、上司と向かったのは会社の近くにある飲食店。そこで、今の妻が働いていました。
 
そのお店は、こじんまりしたバーのような場所で、店員の方とも気軽に話ができる雰囲気でした。店員の彼女とその日初めて話をしてみると、意外にもかなり意気投合。その日を境に、私は彼女の働く飲食店にほぼ毎日通い始めました。
 
しばらく通い続け、クリスマスが訪れた頃、彼女からイヤホンをクリスマスプレゼントしてもらいました。
 
まだお付き合いはしていなかったので、
 
「これは、好意を持ってくれていると思っていいのか…!?」
 
と一人でドキドキしたものです。
 
彼女が以前、水族館が好きだと言っていたのを思い出し、プレゼントのお礼に海遊館に誘いました。それが記念すべき1回目のデートとなりました。
 
そこからは「海遊館に誘ってくれたから、次は私がおすすめのお寺に行ってみよう」など、交互にデートへ誘うように。そして、彼女が働く飲食店に私が通い始めて1年半が過ぎた頃、ついに彼女へ告白をしました。結果は「ぜひ」とのことで、晴れて彼女とのお付き合いが始まったのです。
 
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当時、彼女が住んでいたのは京阪電車の特急が止まる駅。一方、私が住んでいたのは、各駅停車しか止まらない駅でした。つまり、彼女とデートをした後、家に帰るには私は各駅停車の電車に乗らなければなりませんでした。しかし、当時の私は、彼女ともっと話したい一心で彼女と一緒に電車に乗り込み、彼女の駅まで行き、電車の中でおしゃべりを楽しんでいました。
 
夜にデートをした後に彼女の駅まで行くと、だいたい終電がなくなります。そのため、5時間かけて自分の最寄り駅まで歩いて帰ることもしょっちゅうありました。

5時間歩いて帰るのも悪くありませんでしたが、冷静に考えてみると、私の当時住んでいた家と彼女の職場は隣駅だったので、「これ、同棲したほうがよくない?」と思い立ちました。そこで、彼女に軽い気持ちで「もう、一緒に住む?(笑)」と聞いてみることに。当時はまだ付き合ってから1か月ほどだったので、断られるだろうなと思っていましたが、彼女からは「うん、いいよ」と予想外の返事が。
 
こうして、私の1Kの部屋での同棲が始まりました。
 
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一緒に住み始めてからは、ケンカをすることもほとんどなく、平和に暮らしていました。同棲から約2ヵ月後、付き合って3ヶ月目にプロポーズをしようと決めたのですが、実は結婚について真剣に考えるようになった、ある出来事がありました。
 
ある日、仕事から帰ると、自分の家なのにふと違和感を覚えました。なぜか、いつもより部屋が広く感じたのです。不思議に思って部屋の中を見渡すと、すぐにその違和感の正体に気づきました。
 
出社する前にはあった山積みの30冊の漫画雑誌が、すべてなくなっていたのです。そして、その代わりに置かれていたのは、結婚情報誌1冊。物理的には漫画雑誌30冊の方が、圧倒的に重いはずですが、その時の私には、ポツンと置かれた結婚情報誌1冊の方が何倍も重く感じました。
 
漫画雑誌30冊を結婚情報誌1冊に変えたのは、彼女しかいません。
その後、帰宅した彼女に尋ねてみました。
 
「漫画、全部なくなってるんだけど…」
 
「あ、気づいた?」
 
そりゃあ、30冊が一気になくなったら、さすがに気づきますよね。
 
その頃、私も結婚のことは考えていましたが、結婚情報誌を一通り読んでみると、結婚について、というより結婚式場のことばかり載っていて、正直なところ「漫画、返してほしいな…」と少し思いました(笑)。
 
それでも、この出来事がきっかけで、結婚について今まで以上に真剣に考えるようになりました。振り返ってみると、私にとっては大きなターニングポイントだったと思います。
 
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デートを重ね、お付き合いをし、同棲を始め、漫画雑誌30冊が結婚情報誌1冊に変わるなど、さまざまな出来事を経て、話は冒頭に戻ります。
 
私と彼女、そして私の母の3人で食事に行った時のこと。母と彼女が楽しそうに話している姿を見て、心が温かくなりました。大好きな彼女が、自分の大切な家族と笑い合っている。その光景を思い出した瞬間、「プロポーズがしたい」と強く思いました。
 
思ったらすぐに行動するタイプの私は、まずバラを100本手配しました。そして、急遽立てたプロポーズ大作戦が始まったのです。

まず注文したバラを受け取り、ベランダに隠します。その後、彼女を職場に迎えに行き、あとはこの想いを伝えるだけ。人生最大のプロポーズを控え、スーツに着替えた私は部屋を暗くし、バラを抱えて彼女を待っていました。緊張で心臓が飛び出しそうなほどでした。
 
やがて、ガチャッと扉の開く音がして、部屋が明るくなります。緊張は最高潮に達し、バラを持つ手にも力が入ります。
 
彼女の影が見え、ついに居室に現れた彼女は…歯を磨いている最中だったのです。
 
 
「「「えっ、いま!?」」」
 
 
1Kの部屋にこだました彼女の驚きの声。スーツを着てバラ100本を持つ僕を見て、何をしようとしているのか察したのでしょう。彼女は歯ブラシを片手に、目を丸くしていました。
 
 
「…とりあえず、口をゆすいできてもらっていいですか」
 
 
さすがに歯ブラシ片手の彼女に、プロポーズはできません。口をゆすいで戻ってきた彼女を目の前に、改めて背筋を伸ばしました。
 
 
「いつもありがとうございます。一緒に住んでいて、とても楽しいです。結婚しましょう」
 
「いいよ」
 
 
正直、プロポーズに涙ぐむ彼女を想像していましたが、現実はそうではなく、彼女はいつも通りのテンションでうれしい返事をくれました。
 
たくさんの思い出が詰まった1Kの部屋。彼女は部屋着、僕はスーツという少しチグハグな見た目でのプロポーズ。そして、そんなプロポーズに対して、いつも通りの彼女の返事。私にとっては一生忘れられない思い出になりました。
 

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